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クラスター株式会社のソフトウェアエンジニアです。エンジニアリングや読書などについて書いています。

「ベストを尽くせ」だけではベストは生まれない - 「マネジメントとは何か」を読んだ

「マネジメントとは何か」を読んだ。

この本は人間の行動に関する研究論文を多く読んだ筆者が、その見識を専門用語を使わずにまとめてくれている本。採用、モチベーション、リーダーシップ、コミュニケーション、チーム作り、衝突の処理、職務設計、業績評価、変化への対応というように、人間の行動に関する主要な問題分野ごとに章立てされていて、それぞれの章でテーマに沿った知見を得ることができる。非常に簡潔な言葉でまとめられていて、かつ250ページほどの分量なのでかなり簡単に読め、内容はかなり興味深いものが多かった。


マネジメントに携わる人、例えば経営、チームマネジメント、人事などを仕事としている人には非常に参考になる文献だと思う。


いつもどおり、この本の中で印象に残った話題について書いていきたいと思う。

  • 「ベストを尽くせ」だけではベストは生まれない
  • 実際に望んでいる行動に報酬を

「ベストを尽くせ」だけではベストは生まれない

この本の中で、部下に自由にやらせ、ただ「ベストを尽くせ」と言うだけというのは、部下にモチベーションを与える一番良い方法ではないとしている。従業員や作業チームには具体的でレベルの高い目標を与えたほうがもっとよい結果を生むらしい。「人は目標があるときに最大の成果を挙げる」ということは多くの研究で証明されていると書かれていた。

これまでは自分自身はよく会社が行っている目標設定というのがなんのために行うのかということに疑問を抱いていた。しかしこのように目標設定をするべき理由の一つにモチベーションを高めるということがあることを知り、実際に研究からその制度自体が良いということが証明されているというのが興味深かった。

実際ほとんどの会社で目標設定というのを行っているように思うが、目標設定というのが何のために行われているかうまく定義されないままやっているところも多いのではないかと思う。モチベーションという要素は目標設定の効果の一部でしかないが、このような理由があるということを意識していたほうが、より効果的に目標設定を行えるのではないかと感じた。


また他にもこの目標設定については

  • 困難な目標のほうがいったん受け入れられると高い業績を生む
  • 目標は上司が決めても、部下と一緒に決めても効果は変わらない。ただし目標は受け入れられることが必須であり、部下が目標設定に参加すると目標が受け入れられやすい

など面白い内容が書かれていた。

実際に望んでいる行動に報酬を

この本の中に、以下のような話が書かれていた。

ある地域の警察官たちは出勤後パトカーに乗り込んで、待ちを横切るハイウェイに向かい、勤務時間中ずっとハイウェイを往復している。この高速走行が、優秀な警官の任務とあまり関係がないことは明らかだ。だが、あることがわかると、コンサルタントには警官の行動がよく理解できた。警察の仕事が役立っているかどうかを、市議会がパトカーの走行距離で判断していたのだ。市当局は、そうとは考えずに「パトカーのマイル数を増やすこと」に対して報酬を与えていた。だから警察官たちはマイル数を重視していたのだ

この話から、実際に経営陣が望んでいる行動を取ってもらうためには、適切にその行動に対して報酬を出さなければならないということが分かる。この本の中には

  • 実際に経営陣が望んでいる行動に報酬を
  • 例えば作っている製品の品質向上を望むのなら、品質に対して報酬を与えるべきだ

と書かれていた。

報酬のあり方を間違えると実際に望んでいる行動とは全然関係ない行動を取ってしまうことがあるというところが非常に面白い。しかも報酬のあり方は、気をつけないとよく間違えてしまうように思える。この本の中に書かれている残念な例として

  • 経営陣はチームワークを確立したいと言いながら、実際には報酬を個人の業績に対して与えている
  • 経営陣は品質の重要性を唱えておきながら、いいかげんな仕事をした従業員には何も言わず、品質に気を配ったために生産目標を達成できなかった従業員に罰を与える

というものがあったが、このようなことは確かによく起こっているように思えた。

取って欲しい行動をうまく評価指標に転換するのは難しいとは思うが、今後意識していきたいと思う。


またこの話から逆に考えると、会社として舵を切りたい方向があるのなら、それを報酬などの仕組みを利用して調整できるということが考えられる。これは以前読んだ爆速経営 新生ヤフーの500日 にも同じようなことが書かれていた。例えばモバイルの方に舵切りをしたいと考えたら、報酬や評価の指標をモバイルに寄せることにより、モバイル志向へ会社全体を動かすという感じ。もちろん舵切りをする方法は報酬や評価以外にもあって、教育の方法や採用の基準などによっても舵切りができる。もちろんこのような舵切りは会社全体だけでなくて、チーム単位でも事業部単位でも職種単位でも行えるように思う。

このように考えていくと、人事評価がなんのためにあるかの一側面がもう少し深堀り出来たように感じた。目標設定と同様このように意識しておくことで、さらに効果的に評価システムの設計を出来たりするのではないかと感じた。

まとめ

「マネジメントとは何か」は簡潔に書かれているが、その論拠は研究に基づいているため、核心をついた内容が書かれていて参考になった。今回は自分の中では、会社の方向性やチームの方向性を、評価システムなどを利用することで調整できるということを学んだのが非常に有益だった。たぶんまたどこかで再読するように思う。

今回の本を読んで、さらに組織論や業績評価について興味が湧いてきたので、次はそういう本を読んでいきたいと思う。