$shibayu36->blog;

クラスター株式会社のソフトウェアエンジニアです。エンジニアリングや読書などについて書いています。

「組織論補訂版」第Ⅰ部 組織論の基礎を読んだ

組織のことを体系的に学習したいと思って、組織論補訂版を読んでいる。

組織の理論を体系的にまとめられているので、非常に知識が得られる。一方で専門性も高く、読みながら自分できちんと具体的な例を想像していくというように丁寧に読まないと理解がついていかないとも感じている(これは自分の実践や前提となる知識不足を感じる)。なので、一つずつ丁寧に理解していきたい。

ひとまず、「第Ⅰ部 組織論の基礎」を読んだ。第Ⅰ部は3章構成。

  • 第1章 なぜ組織理論を学ぶのか
  • 第2章 組織の定義
  • 第3章 組織均衡と組織論の枠組み

面白いなーと思ったのは、満足化意思決定、行動プログラム、組織均衡論、有効性と能率性の話かな。

  • 満足化意思決定とは、限られた数の選択肢を逐次的に探索し、各選択肢のもたらす結果および効用について限られた範囲内で期待を形成し、その効用が一定の基準を越えていれば、その選択肢を採用する 32
    • この場合、どの順番で、どこから、どのような方向に探索するかで、最終的に選択される解が異なる 33
    • なぜなら満足する選択肢が見つかった時点で決定されるから
  • 限られた情報処理能力をいかに効率的に活用するか -> 「行動プログラム」が規定されることで、探索プロセスにかかるコストと時間は大幅に節約される 33
    • 日常の反復的な行動や、組織内の多くの行動は、この行動プログラムにより支配されている
  • 組織均衡論とは、組織が成立・存続していくためには、どのような条件が必要になるかを明らかにした理論 42
  • 組織均衡論の中心的公準 42 ※
    • 1. 組織は、組織の参加者と呼ばれる多くの人々の相互に関連した社会的行動の体系である
    • 2. 参加者それぞれ、および参加者の集団それぞれは、組織から誘因を受け、その見返りとして組織に対して貢献を行う
    • 3. それぞれの参加者は、彼の提供される誘因が、彼が行うことを要求されている貢献と、等しいかあるいはより大である場合にだけ、組織への参加を続ける
    • 4. 参加者のさまざまな集団によって供与される貢献が、組織が参加者に提供する誘因をつくり出す源泉である
    • 5. したがって、貢献が十分にあって、その貢献を引き出すのに足りるほどの量の誘因を供与している限りにおいてのみ、組織は「支払い能力がある」―存在し続けるであろう
  • 満足基準による意思決定を前提とすれば、ある目標について有効な手段は複数存在する。その中で具体的にどれが選択されるかは「能率」の概念から決定される。 46 ※
    • 能率とは、一般に、インプットのアウトプットへの変換率
    • すべての参加者についてIi(i番目の参加者の誘因効用) >= Ci(i番目の参加者の貢献効用)が達成できなければ組織は存続できないため、一定の能率以上が必要


この本を読んでいる時の前提知識として以下の本の内容が非常に参考になっているので、先にこっちを読んでおくと良いかも。

読書ノート

## 第Ⅰ部 組織論の基礎: 第1章 なぜ組織理論を学ぶのか
- 組織論は、現代社会の基礎的構成要素としての組織を対象とし、その行動や変化のメカニズムを解明する学問 3

## 第Ⅰ部 組織論の基礎: 第2章 組織の定義
- 「組織」とは、「2人以上の人々の、意識的に調整された諸活動、諸力の体系」 20
- 組織の概念その1: 組織を構成する要素は、人間そのものではなく、人間が提供する活動や力である 20
    - 個人と活動とを区別することが最も本質的
    - この概念により、組織が成立するためには、個人から組織に必要な活動を引き出すことが必要ということが分かる
- 組織の概念その2: 組織を構成する諸活動・諸力は、体系(system)として互いに相互作用をもつ 21
    - 組織の相互作用は、必ずプラスの効果を生むとは限らなく、ときには利害の対立などが起こる(コンフリクト)
- 組織の概念その3: 組織を構成する諸活動は、「意識的に調整」されている
- 組織の概念を具体的なイメージにする例 23 ※
    - 岩をその道からどけるという例がわかりやすい
    - 岩をどけるには、それぞれが全力で岩を押すという活動をし(活動の提供)、岩を押す方向をとタイミングを一致(相互作用)させる必要がある。そのためには、事前にどの方向に押すか、どういう合図で押すかなどの調整が必要である(意識的調整)
    - 組織とは、岩が動き出してから、退けられるまでの間に存在する合力
- 組織は、一定の時間的広がり(ある一定の時間内)の中にのみ存在する 24
    - 企業では、勤務時間のみ組織があり、それ以外に組織は存在せず、また勤務時間が始まると組織が再構築されているとみなせる
    - 組織は、繰り返し行われる組織化のプロセスのスナップショットとして観察される
- 一定期間以上存在する組織は、絶えず繰り返される組織化の努力によって維持されなければならない 25
- 組織は、(1)互いに意見を伝達できる人々がおり、(2)それらの人は行為を貢献しようとする意欲をもって、(3)共通目的の達成をめざすときに成立する 25
    - 組織成立のための必要十分条件である組織の三要素とは、伝達、貢献意欲、共通目的
- 意思決定をするにま、「意思決定前提」が必要 27
    - 目標、代替的選択肢の集合、各代替的選択肢の期待される結果の集合、各結果がもたらす効用の集合、意思決定ルール
- 満足化意思決定とは、限られた数の選択肢を逐次的に探索し、各選択肢のもたらす結果および効用について限られた範囲内で期待を形成し、その効用が一定の基準を越えていれば、その選択肢を採用する 32 ※
    - この場合、どの順番で、どこから、どのような方向に探索するかで、最終的に選択される解が異なる 33
    - なぜなら満足する選択肢が見つかった時点で決定されるから
- 限られた情報処理能力をいかに効率的に活用するか -> 「行動プログラム」が規定されることで、探索プロセスにかかるコストと時間は大幅に節約される 33 ※
    - 日常の反復的な行動や、組織内の多くの行動は、この行動プログラムにより支配されている
- 殆どの場合、満足化意思決定が行われると考えるならば、動機づけられた人間の適応行動を次のように表現することができる 34
    - 1. 意思決定主体の満足度が低ければ低いほど、代替的選択肢に対する探索活動はそれだけ積極的に行われる
    - 2. 探索活動が積極化すればするほど、いっそう多くの報酬が期待されるようになる
    - 3. 報酬の期待値が高くなればなるほど、満足度も高くなる
    - 4. 報酬の期待値が高くなればなるほど、決定主体の希求水準も高くなる
    - 5. 希求水準が高くなればなるほど、満足度は低くなる
- 人の行動に影響を与えるには、その人の意思決定プロセスに介入し、意思決定前提に影響を与える必要がある 37

## 第Ⅰ部 組織論の基礎: 第3章 組織均衡と組織論の枠組み
- 組織均衡論とは、組織が成立・存続していくためには、どのような条件が必要になるかを明らかにした理論 42
- 組織均衡論の中心的公準 42 ※
    - 1. 組織は、組織の参加者と呼ばれる多くの人々の相互に関連した社会的行動の体系である
    - 2. 参加者それぞれ、および参加者の集団それぞれは、組織から誘因を受け、その見返りとして組織に対して貢献を行う
    - 3. それぞれの参加者は、彼の提供される誘因が、彼が行うことを要求されている貢献と、等しいかあるいはより大である場合にだけ、組織への参加を続ける
    - 4. 参加者のさまざまな集団によって供与される貢献が、組織が参加者に提供する誘因をつくり出す源泉である
    - 5. したがって、貢献が十分にあって、その貢献を引き出すのに足りるほどの量の誘因を供与している限りにおいてのみ、組織は「支払い能力がある」―存在し続けるであろう
- 組織の有効性とは、共通目的を達成するための手段の選択に関する概念。ある手段が、組織の目標水準を達成するとき、その手段は有効であるという 46
- 組織の構造やマネジメントシステムをどのようにするかは、いずれも組織目的を達成できるか否か、つまり有効性の観点からデザインされる 46 ※
- 満足基準による意思決定を前提とすれば、ある目標について有効な手段は複数存在する。その中で具体的にどれが選択されるかは「能率」の概念から決定される。 46 ※
    - 能率とは、一般に、インプットのアウトプットへの変換率
    - すべての参加者についてIi(i番目の参加者の誘因効用) >= Ci(i番目の参加者の貢献効用)が達成できなければ組織は存続できないため、一定の能率以上が必要
- 組織には、厳密な「組織」概念における境界、ドメインとしての境界、意識的調整の及ぶ範囲としての境界の三つの境界の分類がある 50
- 意識的調整の及ぶ範囲としての境界概念が、日常用いる意味での「境界」に最も近い 51
- 組織と環境の図 53
- 組織が存続するためには、一定以上の有効性と能率を達成しなければならない 56
- インプットの総和より大きいアウトプットを生み出すメカニズムの一つが、分業と統合のメカニズム 56
    - 組織が一定以上の能率を発揮するためには、分業にもとづく専門化の利益が、分断された業務を統合するコストよりも大きいことが必要である
    - 組織は構造をもつことで、統合のコストを低く抑えつつ、専門化の利益を発揮しようとする
- 専門化は、素人に比べてより多くの行動プログラムをもつので、迅速に問題を解決できる 57
    - 反復行動で、行動プログラム化することが、専門化の利益
- 調整・統合は基本的にコミュニケーションを通じて行われる。コミュニケーション・プロセスをプログラム化することで、調整・統合コストが削減できる 57
    - 利用される用語、時間、伝達形式を曖昧性の少ないものに特定化し、使用するコミュニケーション・チャネルを特定化する
- 既存の組織構造の枠組みの中で行われる適応を「短期適応」、組織構造の変更を伴って展開される適応を「長期適応」という 59

世界にインパクトを与え続ける企業とそれ以外を分ける要素を知る - ビジョナリー・カンパニー読んだ

最近、経営戦略だったり組織戦略だったりに興味が出てきたので読んだ。

控えめに言って最高だった。どのくらい最高だったかというと、読み終わったあとにこの本に書いてあることを全部試したいと思ってしまい、このれは良くないと思って、「落ち着いて取り入れられるものを考えよう」と自分に言い聞かせたくらいには良かった。

この本は、ビジョナリー・カンパニーと呼べるほど先見的で、業界で卓越していて、世界にインパクトを与え続けてきた企業と、優良な企業ではあるがビジョナリー・カンパニーの水準には達していない企業とを分ける要素について教えてくれる。この本を読むことで、ミッションや価値観を文章化することや、それを企業に根付かせるために一貫した仕組みを作ることが、いかに大事なのかについて、理解することが出来る。調査の方法も含めて教えてくれているので、非常に納得感があった。

この本は、経営者だけでなく、チームや事業のトップ、職種のトップにもおすすめできる。なぜなら、書かれている考え方はチームレベルでも適用できる考え方だからだ。また、少しでも組織について興味があるならおすすめだ。

僕が特に印象に残ったのは以下の二つ。

  • 企業そのものが究極の作品である
  • 基本理念を企業の動きすべてに一貫性を持たせて反映させる

企業そのものが究極の作品である

この本の中で、「企業そのものが究極の作品である」という言葉があった。ビジョナリー・カンパニーがすばらしい製品やサービスを次々に生み出しているのは、こうした会社が組織として卓越しているからということらしい。そのため、経営者は製品ラインや市場戦略について考える時間を減らし、組織の設計について考える時間を増やすべきと書かれていた。


「企業そのものが究極の作品である」という言葉は自分のモチベーションを高めてくれた。

僕自身は事業を成長させる、新しい事業を作ることにより、社会に新しい価値を提供したいというモチベーションは高い。しかし、事業自体をどう成長させるか、新事業をについて、気付いたら自分がずっと生活中も考え続けていられるほど好きになれないと感じていた。

一方、そのように社会に価値を作る事業を作り出すためにどのような組織を作っていくか、個人の力を最大限引き出すためにどのような組織を作るのかについては、時間があれば四六時中考えていることが多い。例えば、

  • 自分のメンティーの課題や困り事をどう解決するか
  • メンタリング制度自体を改善し続けるためにはどうしたら良いか
  • 技術グループの課題は何か、技術グループは何を果たすべきか
  • 挑戦し続けられる組織を作るためにはどうすればよいか

みたいなことを、通勤中や食事中などに気付いたら考えている。


こういう考え方もあって、事業ではなくて組織に興味があるだけで良いのかということを少し悩んでいた。しかし、この本で、「企業そのものが究極の作品である」という言葉を見たのと、卓越した組織によって世界にインパクトを与える製品を開発できている例をいくつも見たことで、自分はこのまま進んでも良いのだなと思うことが出来た。

今後も組織については四六時中考え続けることができるという強みを伸ばしていきたいなと思う。

基本理念を企業の動きすべてに一貫性を持たせて反映させる

この本には次のように書かれている。

経営理念などを文書にしただけで、必ずビジョナリー・カンパニーになれるわけではない。ビジョナリー・カンパニーの真髄は、基本理念と進歩への意欲を、組織のすみずみにまで浸透させていることにある。目標、戦略、方針、過程、企業文化、経営陣の行動、オフィス・レイアウト、給与体系、会計システム、職務計画など、企業の動きすべてに浸透させていることにある。ビジョナリー・カンパニーは一貫した職場環境をつくりあげ、相互に矛盾がなく、相互に増強し合う大量のシグナルを送って、会社の理念と理想を誤解することはまずできないようにしている

つまり、基本理念を企業の動きすべてに一貫性を持たせて反映させることが大事であるということを言っていた。

基本理念というのは、いわゆるミッション・ビジョン・バリューである。ミッション・ビジョン・バリューは、いろんな経営の本や、記事によって作ることを推奨されているので、たくさんの企業が作っていることが多い。しかし、そこから一歩先に出て、その基本理念を浸透させるために、目標や戦略、評価の仕組みなど、いろんな制度に一貫性を持たせて反映させている企業はなかなか無いのではないだろうか。基本理念にそぐわない昔の慣習を思い切って廃止するなどの改善を続けている企業はなかなか無いのではないだろうか。

この本では基本理念を掲げるだけでは意味はなく、その理念を会社の仕組みのすみずみに反映させることが必要だと、何度も何度も書かれていた。このことを肝に銘じ、ミッション・ビジョン・バリューを作ることで安心せずに、その仕組みづくりをねばり強くしていかなければならないと感じた。

まとめ

今回はビジョナリー・カンパニーについて読んだ感想を書いた。経営者の人はぜひ読んで下さい。

合わせて読みたい

blog.shibayu36.org
blog.shibayu36.org

読書ノート

- 調査対象の企業一覧 213
- 十二の崩れた神話 260
    - 「すばらしい会社をはじめるには、すばらしいアイデアが必要である」など
- 基本的価値観の理念の内容ではなく、理念をいかに深く「信じて」いるか、そして、会社の一挙一動に、いかに一貫して理念が実践され、息づき、現れているか 276
- ビジョナリー・カンパニーは、その基本理念と高い要求にぴったりと「合う」者にとってだけ、すばらしい職場である 291
- 今回の調査プロジェクトでは、二つの大きな目標があった 352
    - ビジョナリー・カンパニーに共通する特徴やダイナミクスを見つけ、実践の場で役に立つ概念の枠組みをつくる
    - これらの結果や概念を効果的に伝え、それによって、経営手法に影響を与えたり、ビジョナリー・カンパニーを設立し、築き、維持する力になりたいと考えている人々の役に立つようにする
- ビジョナリー・カンパニーがほかのグループの会社と比べて、本質的に違う点は何か、際立っている点は何かということを調べた 423
- 企業そのものが究極の作品である 728 ※
    - この発送の転換により、製品ラインや市場戦略について考える時間を減らし、組織の設計について考える時間を増やすべき 781
    - ビジョナリー・カンパニーがすばらしい製品やサービスを次々に生み出しているのは、こうした会社が組織として卓越しているから
- ビジョナリー・カンパニーはきわめて有能な経営者を育成し、社内で昇進させる点で、比較対象企業より優れている。このため、何代にもわたって優秀な経営者が続き、経営の継続性が保たれている 869
- 一見矛盾する力や考え方を同時に追求できないと考えず、両方手に入れる方法を見つけ出す 1104
    - 高い理想を掲げ、かつ、高い収益性を追求するなど
- ビジョナリー・カンパニーの「時を刻む時計」の重要な要素は、「基本理念」という単なるカネ儲けを超えた基本的価値観と目的意識である 1185
    - 基本理念がしっかりしていることが、ビジョナリーカンパニーの成長、発展、転換にとって、特に重要になっている 1321
- ビジョナリー・カンパニーは広い視野に立ち、意義のある理想を追求している。利益を最大限にすることを目指していないが、それぞれの目標を、利益をあげながら追求している。両方とも行っている 1356
    - J&Jは、まず利益を超えた理想を掲げ、次に、理想を追求するうえでの利益の重要性を強調した 1406
- ビジョナリー・カンパニーになるための「正しい」基本理念はあるのか 1610
    - ビジョナリー・カンパニー全社に共通している項目はひとつもない
- ビジョナリー・カンパニーの基本理念一覧 1627 ※
    - 基本理念の考えの広さの参考例として役に立つ
- 理念が本物であり、企業がどこまで理念を貫き通しているかの方が、理念の内容よりも重要である 1696
    - 基本理念を持っており、社員の指針となり、活力を与えているか 1696
- 基本理念を公言すること自体で、その理念に従って一貫した行動をとる傾向が強まる 1710
    - 社会心理学の研究によると
- ビジョナリー・カンパニーは理念を宣言しているだけではなく、その理念を組織全体に浸透させ、ここの指導者を超えたものにするための方法もとっている 1710 ※
    - 従業員に基本理念を徹底して教化し、理念を中心に、カルトに近いほど強力な文化を生み出す
    - 基本理念に合っているかどうかを基準として、経営陣を慎重に育成し、選別する
    - 目標、戦略、戦術、組織設計などで、基本理念との一貫性を持たせている
- 基本理念の定義 1743 ※
    - 基本理念 = 基本的価値観 + 目的
    - 基本的価値観 = 組織にとって不可欠で不変の主義。いくつかの一般的な指導原理からなり、文化や経営手法と混同してはならず、利益の追求や目先の事情のために曲げてはならない
    - 目的 = 単なるカネ儲けを超えた会社の根本的な存在理由。地平線の上に永遠に輝き続ける道しるべとなる星であり、個々の目標や事業戦略と混同してはならない
- 成功する企業と失敗する企業の決定的な違いは、社員のすばらしいエネルギーと才能を組織がどこまで引き出せるか 1758
- ビジョナリー・カンパニーが掲げる基本的価値観はごくわずかで、たいていは三つから六つ 1776
- 会社の価値観を掲げようとしているなら、こう自問するように勧めたい。「これらの価値観のうち、外部の環境が変わっても、たとえ、これらの価値観が利益に結びつかなくなり、逆に、それによって不利益を被るようになったとしても、百年間にわたって守り続けていくべきものはどれか。逆に、これらの価値観を掲げていては不利になる環境になった場合に、変更でき、捨て去れるものはどれか」 1776
    - 自分の会社の目的について考えているのなら、「当社の目的はX製品をY顧客に提供することにある」式に、製品の種類や顧客を特定しないほうがいい
- 目的は正式に宣言するのではなく、非公式な不文律という形をとっている企業の方が多かった。一方、基本的価値観はすべてがはっきりと掲げていた 1879
    - ただし、基本理念を文書にする際に基本的価値観と目的を掲げたことがプラスになっている
- 基本理念の考え方は、会社全体だけでなく、自分のグループ・部門・事業部でも利用できる 1879

## 基本理念を維持し、進歩を促す
- 基本理念と、基本理念ではない慣行を混同すると問題が起こる 1933
    - 基本理念ではない部分にしがみつく結果になる
- ビジョナリー・カンパニーは基本理念を大事に維持し、守るが、基本理念を表す具体的な行動は、いつでも変更し、発展させなければならない 1933
    - 例が書かれている
    - 基本理念を、文化、戦略、戦術、計画、方針などの基本理念ではない慣行と混同しない
- 基本理念を維持しながら、進歩を促す 1949 ※
    - ビジョナリー・カンパニーの真髄
    - 常に理念に徹すると「同時に」、力強く進歩しようとする
- ビジョナリー・カンパニーの建築家は、戦略、戦術、組織体系、構造、報酬制度、オフィス・レイアウト、職務計画など、企業の動きすべてに一貫性を持たせようと努力している 2050
- 経営幹部のためのキーコンセプト 2078

## 社運を賭けた大胆な目標
- ビジョナリー・カンパニーは進歩を促す強力な仕組みとして、ときとして大胆な目標を掲げる 2155
    - BHAG(Big Hairy Audacious Goals)
- BHAGと呼べるのは、その目標を達成する決意がきわめて固い場合だけ 2319
- BHAGを使ってみようとするときに、忘れてはならない点 2607 ※
- 基本理念を強化し、目指す方向にあったBHAGのみに取り組んでいる 2629
    - ビジョナリー・カンパニーの基本理念とBHAGの関連 2647

## カルトのような文化
- ビジョナリー・カンパニーでは、イデオロギーに関してカルト的になっている 3166
    - 個人崇拝のカルトをつくるべきではない
- 基本理念を熱心に維持するしっかりとした仕組みを持った組織をつくること 3166 ※
- カルトのような文化は、基本理念を維持するものであり、これとバランスをとるものとして、進歩を促す強烈な文化がなければならない 3200
- ビジョナリー・カンパニーは基本理念を厳しく管理すると同時に、業務上幅広い自主性を認めて、個々人の創意工夫を奨励している 3219
    - 従業員に権限を与えて、分散型の組織をつくりたいと考えている企業は、何よりもまず、理念をしっかりさせ、従業員を教化し、病原菌を追い払い、残った従業員にエリート組織の一員として大きな責任を負っているという感覚をもたせるべきである 3252

## 大量のものを試して、うまくいったものを残す
- J&Jはうまくいったものを残し、うまくいかなかったものはすぐに捨て去っている 3411
- 3Mの技術指針マニュアルにはアイデアを生み出し、そして試験する力強い体制を築かなければならないと書かれている 3579
    - いいアイデアであること、3Mの基本理念に基づき、アイデアが本質的に新しいものであること、社会のニーズに合致したものであることを証明していること
- 3Mの、新しい事業の作成などの進歩を刺激する仕組み 3614
- 3Mを手本に、ビジョナリー・カンパニーが進化による進歩を促すにあたって学ぶべき教訓 3705 ※
    - 試してみよう。なるべく早く
    - 誤りは必ずあることを認める
        - 健全な進化を実現するには、様々な実験を、さまざまな種類で行い、うまくいったものを残し、うまくいかなかったものを捨てるようにしなければならない 3722
        - 秘訣があるなら、失敗の事業はそうとわかった時点でなるべく早く捨てること
    - 小さな一歩を踏み出す
        - 小さい失敗なら許すのも容易
        - 小さな一歩が、大きな戦略転換の基礎となりうる
    - 社員に必要なだけの自由を与えよう
    - 重要なのは仕組みである。着実に時を刻む時計をつくるべきだ
        - 以上の四つを単なる考え方に終わらせず、いくつもの具体的な仕組みをつくり、それらがうまくかみあって進化による進歩を促すようにした
- 「機軸から離れない」ではなく、「基本理念から離れない」 3810
- 上記5つの教訓に追加して、進化による進歩を促す際に、基本理念を維持することを忘れてはいけない 3826

## 生え抜きの経営陣
- 経営者の継続性をもたらす好循環と、経営者断絶と救世主の悪循環 3983
- ビジョナリー・カンパニーと比較対象企業の差をもたらしている最大の要因は、経営者の質ではなく、優秀な経営陣の継続性が保たれていること、それによって基本理念が維持されていること 3984

## 決して満足しない
- 「明日にはどうすれば、今日よりうまくやれるのか」 4238
- 自己満足の病と戦うには、不安感を生み出すなんらかの仕組みが必要 4290
- ビジョナリー・カンパニーの経営幹部は、短期的な業績または長期的な成功の二者択一が必要だという考え方を受け入れない。何よりも長期的な成功を目指しながら、同時に、短期的な業績についても高い基準を掲げている 4403
    - 長期というのは五十年レベルを意味している事が多い
- もっとも重要な点は、常に進歩を求める経営者の意向が活かされるように、会社組織のなかに具体的な仕組みをつくっていったこと 4503
- 企業の育成や経営に取り組んでいるのであれば、以下の点を問いかけてみるよう勧めたい 4535
    - どのような「不安をもたらす仕組み」をつくって、自己満足に陥らないようにし、内部から変化と改善を生み出すとともに、基本理念を維持していくことができるのか。そのような仕組みに強力なムチの要素を加えるには、どうすればいいのか
    - 将来のための投資を進めながら、同時に、たったいまの業績をよくするために、何をしているのか。業界に先駆けて、新しい方法や技術を導入しているだろうか
    - 不景気にどのように対応するのか。不景気の間も、将来のための投資を続けていけるのか
    - 安心感が目的ではないこと、ビジョナリー・カンパニーが働きやすい職場ではないことを社員は理解しているだろうか。楽な生活を最終目標にするのを拒否し、こうした目標に代えて、いつも明日には今日より前進するという終わりのない修練の過程を重視しているか

## はじまりの終わり
- 経営理念などを文書にしただけで、必ずビジョナリー・カンパニーになれるわけではない。ビジョナリー・カンパニーの真髄は、基本理念と進歩への意欲を、組織のすみずみにまで浸透させていることにある。目標、戦略、方針、過程、企業文化、経営陣の行動、オフィス・レイアウト、給与体系、会計システム、職務計画など、企業の動きすべてに浸透させていることにある。ビジョナリー・カンパニーは一貫した職場環境をつくりあげ、相互に矛盾がなく、相互に増強し合う大量のシグナルを送って、会社の理念と理想を誤解することはまずできないようにしている 4586 ※
- CEO、経営幹部、起業家のための一貫性の教訓 4581 ※
    - 全体像を描く
        - 驚くほど広範囲に、驚くほどの一貫性を、長期にわたって保っていくこと
    - 小さなことにこだわる
        - 従業員に強い印象を与え、力強いシグナルを送るのは、ごく小さなことであり、この点を確認しておくべき
    - 下手な鉄砲ではなく、集中砲火を浴びせる
        - いくつもの仕組みや過程をばらばらにつくるのではなく、それぞれが互いを強化し合い、全体として強力な連続パンチになるように、仕組みや過程を集中している
    - 流行に逆らっても、自分自身の流れに従う
        - 正しい問いの立て方は、「これはよい方法なのか」ではなく、「この方法は当社に合っているのか、当社の基本理念と理想に合っているのか」である
    - 矛盾をなくす
        - 基本理念との一貫性がとれていないものは、ねばり強く改めていく
    - 一般的な原則を維持しながら、新しい方法を編み出す
- ビジョナリー・カンパニーになるためには、基本理念がなくてはならない。また、進歩への意欲を常に維持しなければならない。そして、もうひとつ、基本理念を維持し、進歩を促すように、すべての要素に一貫性がとれた組織でなければならない 4953
- 覚えて欲しい四つの概念 4972
    - 1. 時を告げる予言者になるな。時計をつくる設計者になれ。
    - 2. 「ANDの才能」を重視しよう。
    - 3. 基本理念を維持し、進歩を促す。
    - 4. 一貫性を追求しよう。

## おわりに
- 「状況が変わって、この基本的な価値観のために業績が落ち込むことがあっても、それを守り抜こうとするだろうか」。心からイエスという答えを出せないのであれば、それは基本的なものではなく、削除すべきだ。 5008
    - 問題はスピードと能力だけで、品質はだれも重視しなくなっていたとしても、品質を基本的価値観のひとつにあげたいと思うだろうか
- 一貫性が大切であることを無視するのは、経営者や経営幹部が陥りやすい誤りのなかでも、飛び抜けて手痛いものである 5058
- ビジョナリー・カンパニーから学んだ教訓のほとんどは、スケールは小さくなるが、自分の責任の範囲で適用できる 5077
    - 企業が全体として、しっかりした基本理念を持っていないからといって、自分の部署がそれを持ってはならないわけではない

良い制度には「カイゼンループ」が組み込まれている

最近いろんな制度や仕組みを見ていて、良い制度には「カイゼンループ」が組み込まれているなと感じた。(カイゼンループは、トヨタの「カイゼン」と、繰り返しの「ループ」を組み合わせて、勝手に造語してみた)

カイゼンループとは、制度・仕組み・関わる人・チーム・組織などの「カイゼン(改善)」がくり返し行われるようになっている状態のこと。カイゼンループが組み込まれていると、

  • 制度が組織の現状に合わせて改良され、それにより組織にフィットした制度になり、形骸化しない
  • メンバーがどんどん成長し、より高度で柔軟な動きができるようになる

などといった効果があるように見える。

抽象的な話をしてもよく分からないと思うので、ここからはそのように感じた具体的な例をいくつか挙げてみたい。

開発フローのスクラム

まずいちばん分かりやすい例が開発フローであるスクラムスクラムにはスプリント期間ごとの振り返りにより、「カイゼンループ」が組み込まれている。

振り返りにより、チームのカイゼンや、メンバーの成長が促進される。これがスプリント単位でくり返し行われる。正しくカイゼンのループが回っていれば、そのチームではどんどん学習が行われ、より良い仕組みとなる。

VOYAGEの技術力評価会

もう少し具体的な例として、VOYAGEの技術力評価会にはカイゼンループが組み込まれていると感じた。技術力評価会自体については以下を参照してほしい。

speakerdeck.com

この制度の中で、僕が一番すごいなと思ったのは、二種類のカイゼンのループが組み込まれていることだ。

一つ目は、技術力評価会の全体のカイゼンループ。技術力評価会のフローの中に、全体振り返りが組み込まれている。ここに興味のある人が参加し、KPTをすることにより、仕組み全体のカイゼンを行っている。これにより、制度にどんどん改良が加えられ、一番最初に導入した時と現在では、かなり仕組みが変わり、現在のVOYAGEの状況にあったものになっていそうだ。

二つ目は、評価者のカイゼンループ。この制度は、一人の被評価者に対して、最低でも二人の評価者が付き、それぞれが評価のコメントを書く。このため、評価者は評価が終わった後にもう一方の評価者のコメントを参照することができる。評価者はそこからフィードバックを得て、次の評価に活かすことができる。これが評価会のたびに行われ、評価者自体のカイゼンがくり返し行われる。

このように二種類のカイゼンループが回って、制度がどんどん良いものになっているのだろうと感じた。

参考

ヤフーの1on1

ヤフーの1on1にもカイゼンループが組み込まれている。ヤフーの1on1については以下を参照。

これには、「1on1チェック」という、部下から上司への定期的なフィードバックの仕組みが組み込まれている。1on1チェックとは、3ヶ月に1回、部下が幾つかの項目の点数付けと、定性的なコメントによるフィードバックを行うもの。これにより、上司は自身の1on1の振り返りを行うことができ、3ヶ月に1回のスパンでカイゼンのループが回っている。

まとめ

以上に三つの例を挙げたが、このようにうまく運用されている制度には、カイゼンループが組み込まれていると感じた。そこで新しい制度を考えるときには、これらに倣ってどうカイゼンを回せるようにするかを一緒に考えていきたいと思った。

【蛇足】この記事を書いてて、これって経験学習と呼ばれるものなのでは?と思ったので、その関連の本も読んでみたいと思った。